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京都地方裁判所 昭和61年(行ウ)21号 判決

(当事者の表示)

A事件

京都市中京区油小路通夷川上ル橋本町四八四番地

原告

冨士興業株式会社

右代表者代表取締役

富田順一

京都市中京区柳馬場通二条下ル等持寺町一五番地

被告

中京税務署長 西垣守雄

B事件

京都市上京区長者町通浄福寺西入新御幸町五二番地

原告

金丸太一郎

京都市右京区嵯峨柳田町四番地サガスカイハイツ五〇三号

原告

辻村祐子

京都市上京区長者町通浄福寺西入新御幸町五二番地

原告

金丸康治

京都市上京区一条通西洞院東入元真如堂三五八番地

被告

上京税務署長 宮谷節

C事件

京都市伏見区醍醐新開三番地の八

原告

藤井敏夫

京都市伏見区醍醐江奈志町一〇番地の一四〇

原告

赤畠美知子

京都市伏見区鑓屋町無番地

被告

伏見税務署長 多田甲子夫

D事件

京都市中京区油小路通夷川上ル橋本町四八四番地

亡富田保治訴訟承継人(兼当初の原告)

原告

富田ヨシ

右同所

亡富田保治訴訟承継人

原告

富田順一

京都市左京区上高野防山一番地の一八

亡富田保治訴訟承継人

原告

富田謙三

京都市山科区西野大鳥井町一一八番地の二

亡富田保治訴訟承継人

原告

富田征義

京都市上京区長者町通浄福寺西入新御幸町五二番地

亡富田保治訴訟承継人

原告

金丸喜久子

京都市中京区柳馬場通二条下ル等持寺町一五番地

被告

中京税務署長 西垣守雄

E事件

京都市左京区上高野防山一番地の一八

原告

富田謙三

右同所

原告

富田謙一郎

右同所

原告

富田典子

右同所

原告

富田哲史

京都市左京区聖護院円頓美町一八番地

被告

左京税務署長 大国克己

F事件

京都市山科区西野大鳥井町一一八番地の二

原告

富田征義

右同所

原告

富田美保

昭和四七年七月一八日生

右法定代理人親権者父

富田征義

同母

富田智子

京都市東山区馬町通東大路西入ル新シ町

被告

東山税務署長 岡嶋貞夫

G事件

京都市中京区油小路通夷川上ル橋本町四八四番地

原告

富田保一郎

右同所

原告

富田順子

右同所

原告

富田宏子

京都市中京区柳馬場通二条下ル等持寺町一五番地

被告

中京税務署長 西垣守雄

H事件

京都市中京区油小路通夷川上ル橋本町四八四番地

原告

富田順一

右同所

原告

富田宏子

右同所

原告

富田保一郎

右同所

原告

富田順子

右同所

原告

富田千晴

京都市中京区柳馬場通二条下ル等持寺町一五番地

被告

中京税務署長 西垣守雄

全事件(代理人)

以上原告ら訴訟代理人弁護士

森川清一

以上被告ら指定代理人

小久保孝雄

主文

一  原告冨士興業株式会社の請求(A事件・昭和六二年(行ウ)第六号事件)のうち、被告中京税務署長が同原告の昭和五六年三月一日から昭和五七年二月二八日までの事業年度分法人税について昭和五九年三月三一日付けでした更正処分の取消請求の訴えを却下し、同原告のその余の請求を棄却する。

二  その余の原告らの各請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実・理由

第一原告らの請求

一 A事件(昭和六二年(行ウ)第六号事件)

1 被告中京税務署長が原告冨士興業株式会社(以下、「原告会社」という。)に対しそれぞれ昭和五九年三月三一日付けでした次の各処分をいずれも取り消す。

(一) 原告会社の昭和五五年三月一日から昭和五六年二月二八日までの事業年度分(以下、「昭和五六年二月期分」という。)の法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分

(二) 原告会社の昭和五六年三月一日から昭和五七年二月二八日までの事業年度分(以下、「昭和五七年二月期分」という。)の法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分

(三) 原告会社の昭和五七年三月一日から昭和五八年二月二八日までの事業年度分(以下、「昭和五八年二月期分」という。)の法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分

(四) 原告会社の昭和五六年二月分、昭和五七年二月分及び昭和五八年二月分の各源泉所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分

2 被告中京税務署長が原告会社に対し昭和六〇年三月一二日付けでした原告会社の昭和五七年二月期分の法人税の再更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。

二 B事件(昭和六二年(行ウ)第一号事件)

被告上京税務署長が原告金丸太一郎、原告辻村祐子及び原告金丸康治に対しそれぞれ昭和五九年七月一一日付けでした同原告らの昭和五六年分所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。

三 C事件(昭和六二年(行ウ)第二号事件)

被告伏見税務署長が原告藤井敏夫及び原告赤畠美知子に対しそれぞれ昭和五九年一二月二五日付けでした同原告らの昭和五六年分所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。

四 D事件(昭和六二年(行ウ)第三号事件)

被告中京税務署長が承継前の原告亡富田保治(その訴訟承継人は、富田ヨシ、富田順一、富田謙三、富田征義及び金丸喜久子)及び原告富田ヨシに対しそれぞれ昭和五九年一〇月五日付けでした同原告らの昭和五七年分及び昭和五八年分所得税の各更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。

五 E事件(昭和六二年(行ウ)第四号事件)

1 被告左京税務署長が原告富田謙三に対し昭和五九年一一月一二日付けでした同原告の昭和五七年分及び昭和五八年分所得税の各更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。

2 被告左京税務署長が原告富田謙一郎、原告富田典子及び原告富田哲史に対しそれぞれ昭和五九年一一月一二日付けでした同原告らの昭和五七年分所得税の各決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。

六 F事件(昭和六二年(行ウ)第五号事件)

1 被告東山税務署長が原告富田征義に対し昭和五九年一〇月三〇日付けでした同原告の昭和五七年分及び昭和五八年分所得税の各更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。

2 被告東山税務署長が原告富田美保に対し昭和五九年一〇月三〇日付けでした同原告の昭和五七年分所得税の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。

七 G事件(昭和六一年(行ウ)第二一号事件)

1 被告中京税務署長が原告富田保一郎及び原告富田宏子に対しそれぞれ昭和六〇年三月一二日付けでした同原告らの昭和五六年分所得税の各更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。

2 被告中京税務署長が原告富田順子に対し昭和六〇年三月一二日付けでした同原告の情報五六年分所得税の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。

八 H事件(昭和六一年(行ウ)第二五号事件)

1 被告中京税務署長が原告富田順一、原告富田宏子、原告富田保一郎及び原告富田順子に対しそれぞれ昭和五九年一〇月五日付けでした同原告らの昭和五七年分及び昭和五八年分所得税の各更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。

2 被告中京税務署長が原告富田千晴に対し昭和五九年一〇月五日付けでした昭和五七年分及び昭和五八年分所得税の各決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分をいずれも取り消す。

第二事案の概要

一 請求の類型

本件請求は、いずれも原告会社の土地の低額譲渡に関するもので、次の二群に分類できる。

(一) 原告会社が、その差額代金を未収入金として処理したうえ、その数年後、回収不能による雑損失処理をしたところ、税務署長がこれを否認し、損金不算入額を計算して更正処分をし(A事件)、他方、右土地の譲受人である原告らに対し、寄付金、役員賞与、使用人給与(賞与)を受けたものとして課税処分をした。これに対して、原告らがこれを争い、その取消しを求める事件(A、G以外の全事件、以上を「未収入金事件」という。)。

(二) 原告会社の右未収入金処理を経ていない土地譲渡につき、税務署長が、低額譲渡分を贈与とし、また、譲受人がその後右土地を交換したことにより分離短期譲渡所得があると認定し、原告会社とその譲受人に対し、更正処分等をした。これに対して、原告会社と譲受人である原告らが、その取消しを求める事件(A、G事件、以上を「低額譲渡事件」という。)。

二 前提事実(争いがない)

1 原告らの身分関係

(一) 原告会社は、土地開発、建売、土地売買等を業とする富田一族が経営する同族会社であり、その代表取締役は、富田保治であったが、同人は平成元年一〇月九日死亡し、同年一一月六日原告富田順一が代表取締役に就任した。

(二) 譲受人である原告らは、原告会社の前代表取締役と特別縁故関係を有する者であって、その関係は別表乙1「身分関係一覧表」記載のとおりである。

2 未収入金事件

(一) 土地の譲渡、転売(原告会社→原告ら→公社等)

原告会社は、譲受人である原告らに対し、原告会社所有の別紙第一ないし第十物件目録記載の土地を譲渡し、その後、同原告らは、譲り受けた右土地をそれぞれ京都府住宅供給公社及び京都府京都土木工営所(以下、「公社等」という。)へ譲渡した。その売買物件、売買年月日、譲受人、譲渡価格などは、別表乙2の1~3「冨士興業関連事件一覧表」記載のとおりである。

(二) 原告会社の修正申告、未収入金計上とその後の雑損失処理等

その後、税務調査において、被告中京税務署長の担当職員は、原告会社に対し、原告会社から原告ら(前示譲受人)に対する譲渡価額が低額であることを指摘し、低額譲渡による贈与の修正申告をするようにしょうようした。

これに対し、原告会社前代表取締役富田保治は、当初は譲渡価額が低額であることを争い、修正申告をしなかったが、結局、昭和五一年一二月一六日及び昭和五二年七月一日の二回にわたり、当初の譲渡価額を増額し、その増額分(差額代金)を未収入金として計上する内容の修正申告をした。

その数年後、原告会社は、昭和五六年二月期分、昭和五七年二月期分、昭和五八年二月期分に未収入金を回収不能を理由として雑損失に計上処理した。

以上の経過は、別表乙13「未収入金の雑損失処理の内訳及びその発生の経緯」記載のとおりである。

3 低額譲渡事件

(一) 原告会社は、昭和五六年七月二八日、前示未収入金処理分以外の土地(原告会社所有の京都市伏見区石田森南町二〇番の一、田七五一平方メートル、実測面積九一二・三一平方メートル、以下、「森南町の土地」という。)を、譲渡価額五、二一二万円で原告らに譲渡した(譲渡を受けたのが二名か三名かは争いがある。)。

(二) 昭和五六年九月一〇日、右土地の所有者となった原告富田保一郎、原告富田順子及び富田宏子(以下、「原告三名)という。)は、山本重太郎との間で、森南町の土地と同人所有の京都市伏見区醍醐多近田町二番2、田、九一二平方メートル(以下、「多近田町の土地」という。)と等価で交換した。

(三) 昭和五七年一月一一日、原告三名は、右交換により取得した多近田町の土地を京都市土地開発公社に代金一億二、四二六万九、一二〇円で売却した。

4 課税の経緯

(一) 未収入金事件

被告中京税務署長は、原告会社がした未収入金の雑損失処理につき、その損金算入を否認して、更正処分、再更正処分等の課税処分をし、その余の原告ら(原告三名を除く)の管轄税務署長は、譲受人である原告らが原告会社の未収入金の雑損失への計上により債務免除の経済的利益を受けたとして、更正等の課税処分をした。

その課税の経緯は、以下の別表に記載のとおりである。

(1) A事件(昭和六二年(行ウ)第六号事件)

イ 法人税関係 別表乙A1の1~3

ロ 源泉所得税の納税告知処分及び不納付加算税 別表乙A3

(2) B事件(昭和六二年(行ウ)第一号事件) 別表乙B1~3

(3) C事件(昭和六二年(行ウ)第二号事件) 別表乙C1、2

(4) D事件(昭和六二年(行ウ)第三号事件) 別表乙D1~4

(5) E事件(昭和六二年(行ウ)第三号事件) 別表乙E1~5

(6) F事件(昭和六二年(行ウ)第三号事件) 別表乙F1~3

(7) H事件(昭和六一年(行ウ)第二五号事件) 別表乙H1~10

(二) 低額譲渡事件

被告中京税務署長は、原告会社の原告三名に対する森南町の土地の譲渡が低額譲渡であり、原告会社が時価と譲渡価額との差額を原告三名に贈与したものとして、また、原告三名のした土地の交換による森南町の土地の取得時の時価と多近田町の土地の交換時の時価の差額につき分離短期譲渡所得があるとして、更正等の課税処分をした。

その課税の経緯は、以下の別表に記載のとおりである

(1) A事件(昭和六二年(行ウ)第六号事件) 別表乙A1の2

(2) G事件(昭和六一年(行ウ)第二一号事件) 別表乙G1~6

5 課税の根拠

被告らが主張する課税の根拠は、別表乙4ないし15に記載のとおりである。

三 原告らの主張

1 未収入金事件について

(一) 原告会社の主張

(1) 過大認定等

更正処分、再更正処分はいずれも所得を過大認定した違法なものである。

源泉所得税の納税告知処分は、存在しない経済的利益の供与の事実を前提として課税する違法なものであり、右各納税告知処分を前提とする各不納付加算税の賦課決定処分も違法である。

(2) 未収入金について

未収入金は、もともと架空のものであるから、原告会社が未収入金を雑損失に計上しても未収入金債務者に経済的利益を供与することにならない。

即ち、もともと右譲受人(買主)らと原告会社間の売買契約における売買代金額は適正価格であって、各譲受人との間の売買代金は決済ずみであるから、原告会社がした次の税務行政指導による水増申告によって、譲受人との間の売買代金額は増額されないし、また、原告会社の差額代金の未収入金計上処理によって、原告会社が譲受人らに対し未収入金債権を取得するはずがなく、未収入金自体がもともと架空のものである。このことは、原告会社の未収入金が長期間未回収のままになっているのに被告中京税務署長が、これを実質的な貸金として認定して利息相当分に対する課税を行っていないことからも明らかである。

(3) 修正申告について

原告会社は、税務調査において税務署職員から、右土地の売買価額が低すぎるとして修正申告を強く迫られ、その際、担当職員から、修正科目を未収入金として計上すること及び右未収入金は後日雑損失として処理することができる旨の税務行政指導を受けたので、やむなく不本意ながら修正申告することにしたものである。

なお、被告らは原告会社が売買代金増額の修正申告をしたことから、その増額部分の未収入金債権の存在を認めるべきであるというが、この申告は原告会社が独自にしたものであり、これにより各譲受人に対して債権が生ずるいわれはなく、その債権の回収は法律上不可能である。

(二) その余の原告らの主張

(1) 原告らは原告会社の本件未収入金の雑損失処理により何らの経済的利益を受けるものではない。その理由は原告会社の主張を援用する。

(2) 予備的反論

仮に、前記土地の売買が低額譲渡であり、これにより右原告らが原告会社から経済的利益を受けた事実があるとしても、原告らが経済的利益を受けた時期は、売買契約の締結された昭和四九年ないし昭和五〇年であって、原告の前示未収入金債権の回収不能処理によるものではない。しかも、この経済的利益による租税債権などは、右回収不能処理時点では、次のとおり既に消滅していたものである。

イ 会計法三〇条に関する主張

会計法三〇条によれば、国の税法上の債権は五年間で時効により消滅する。被告が本件処分をした昭和五九ないし昭和六〇年までには本件に関する国の税法上の債権は時効により消滅しており、本件処分は時効により消滅した権利の存在を前提とするものであるから違法である。

ロ 国税通則法七〇条に関する主張

国税通則法七〇条によれば、更正処分または賦課決定処分は、法定申告期限から三年を経過した日以後はすることができない。したがって、原告らが前記経済的利益を受けた時期から約一〇年を経過した昭和五九ないし昭和六〇年にした被告らの本件各処分が違法であるとは明白である。

2 低額譲渡事件について

(一) 原告会社の主張

(1) 原告会社が森南町の土地を譲渡した買主は、原告富田保一郎と原告富田順子の二名であり、これに原告富田宏子を加えた原告三名ではない。

(2) 原告会社の譲渡価額は適正価格であって、低額譲渡ではない。京都市土地開発公社の買い受け価額は、小学校用地の緊急確保のため、多近田町の土地を近隣の地価に関係なく買い受けた特殊例外的な価額であって、適正な時価ではない。

(二) 原告三名の主張

原告会社の主張のとおりである。

四 被告らの主張

1 未収入金事件について(A~F、H事件関係)

(一) 原告会社関係

原告会社の、前示のとおり修正申告により計上した未収入金は貸倒れの状況にあるとは認められず、これを原告会社が回収不能として雑損失に計上したことは、未収入金債務者らに対し債務免除を行い経済的利益の供与をしたものと認めるほかないので、損金算入のうち、後記(二)(1)(2)の寄付金、役員賞与に当たるものは損金に算入することはできないから、その損金処理を否認すべきである(昭和六二年改正前の法人税法(以下、単に「法人税法」という。)三五条四項、一項、三七条五項、一項)。

なお、原告会社は、修正申告による増額部分については原告会社が独自に処理したものであって、各譲受人からの法律上の回収は不可能なので雑損失として損金に計上した旨主張するが、譲受人は原告会社の株主等同族関係者であり、その中には未成年者が多数含まれている等もともと正常な土地の売買とはいい難いものであり、将来の相続税課税をも免れる目的もあったと見るべきであり、代金回収そのものの可否については問題とせず、その都度場当たり的に処理したものと推測できる。

また、未収入金は、本来は、法人税法上の寄付金に該当する部分であったもので、原告会社が未収入金を回収不能として損金処理したことは、法人税法三七条五項に該当することになる。したがって、結果的には同法三七条六項に該当する寄付行為が同条五項に該当することに替わったもので、原告会社に対する法人税の課税、譲受人に対する所得税の課税が五年ないし九年間延伸されたのにほかならない。

(二) その余の原告ら関係

(1) 未収入金債務者のうち、原告会社が役員、使用人でない原告らに対し供与した経済的利益の額は、同人らに対する寄付金に該当する(法人税法三七条五項、一項)。

そして、原告会社の未収入金を雑損失に計上したことにより右債務者である原告らは、債務免除による寄付金に該当する経済的利益の供与を受けたもので、これは所得税法三四条の一時所得に該当する。

そこで、右経済的利益の額を、同年分の右原告らの一時所得の収入金額に算入し、この収入を得るためにその年分中に支出した金額がないので、これから特別控除額を控除して一時所得の金額を算出し(同法三四条二項、三項)、この金額の二分の一を総所得金額に算入した(同法二二条二項)。

(2) 役員賞与の該当者

未収入金債務者のうち、原告会社の代表取締役、取締役である者については、同人らに対し供与した前示経済的利益の額が同人らに対する役員賞与に該当する(法人税法三五条四項、一項)。

(3) 使用人給与(賞与)の該当者

未収入金債務者のうち、原告会社の役員ではなく使用人である者については、同人らに対し供与した前示経済的利益の額が同人らに対する使用人給与(賞与)に該当する。

2 低額譲渡による寄付金について(A、G事件)

(一) 原告会社関係

原告会社の前示原告三名に対する森南町の土地の譲渡は低額譲渡であり、原告会社は時価と譲渡価額との差額を贈与したものと認められ、これは寄付金に該当する(法人税法三七条六項)。

(二) 譲受人である原告三名関係

右(一)に伴い、原告会社から贈与を受けた寄付金相当額の経済的利益は、譲受人である原告三名にとって所得税法三四条に規定する一時所得に該当するので、右経済的利益額を、同年分の右原告の一時所得の収入金額に算入し(所得税法三六条一項)、この収入を得るための支出金額がないため(所得税法三四条二項)、これから特別控除額を控除して(同条三項)、一時所得の金額を算出し、この金額の二分の一を総所得金額に算入した(所得税法二二条二項)。

3 源泉所得税について(役員賞与、使用人給与関係)

原告会社が未収入金債務者である役員らに対し前示のとおり回収不能による損金処理により同人らに供与した経済的利益の額は、役員賞与に該当する。

原告会社が未収入金債務者である使用人らに対し供与した経済的利益の額は、使用人に対する給与(賞与)に該当する。

したがって、別表乙A3記載のとおり、原告会社は、この分につき源泉徴収をしなかったものであり、被告のした源泉所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分は適法である。

4 減算金額について(未納事業税認容額)

原告会社の本件法人税の更正処分により増加した所得金額に係る事業税相当額は損金の額に算入すべきものである。

5 分離短期譲渡所得について(原告三名関係)

原告三名のした土地の交換は、所得税法五八条に規定する一年以上有していた資産の交換に当たらず、通常の譲渡と認められるため、多近田町の土地の交換時の時価を分離短期譲渡所得の収入金額に算入し(所得税法三六条一項)、取得費として森南町の土地の取得時点の時価、譲渡費用となる借入金利息等を右収入金額から控除して、分離短期譲渡所得金額を算出した(別表15の1~3欄参照。)。

五 争点

本件の中心的争点は、次の四点にある。

1 未収金事件

(一) 原告会社の本件土地売買代金に未収入金債権があるか。

(二) 原告会社の行った未収入金債権の回収不能処理が、債権放棄として、原告会社側では、買主に対する寄付金、役員賞与、使用人給与(賞与)になるか、買主側では、これが贈与などによる一時所得等となるか。

2 低額譲渡事件

(一) 譲渡の相手方

(二) 森南町の土地の売買が低額譲渡にあたるか否か。

第三訴え適否の判断(A事件の訴えの一部却下)

本件課税の前示第二の二4の課税の経緯に照らすと、原告会社は、被告中京税務署長が原告会社の昭和五七年二月期分の法人税について、昭和五九年三月三一日付けでした更正処分と、後に昭和六〇年三月一二日付けでした右更正処分を増額する再更正処分のいずれについても取消しを求めているが、当初の更正処分がなされた後にこれを増額する再更正処分がなされたときは、当初の更正処分は増額再更正処分の処分内容としてこれに吸収されて消滅しているので、当初の更正処分の取消しを求める訴えの利益は失われるから、昭和五九年三月三一日付け更正処分の取消しを求める訴えは、訴えの利益のない不適法なものとして却下すべきである(最一小判昭和三二・九・一九民集一一巻九号一六〇八頁、最三小判昭和四二・九・一九民集二一巻七号一八二八頁、最一小判昭和五五・一一・二〇集民一三一号一三五頁参照)。

なお、原告会社が昭和五九年三月三一日付け更正処分の違法事由として主張する事実は、右のとおり当初の更正処分は増額再更正処分の内容として吸収され一体となっているから、後に行われた増額再更正処分の違法事由の主張として判断すべきものである。

また、右増額再更正処分は、別表乙A1の2のとおり裁決により一部取り消されており、弁論の全趣旨に照らし、原告らの本訴請求は右取消後の増額再更正処分に対するものであると認められる。

第四争点に対する判断

一 未収入金事件(AないしF、H事件)の検討

1 未収入金債権の存否の検討

原告会社は、未収入金がもともと架空のものであるから、原告会社の未収入金債権は回収不能であり、また、これを雑損失に計上しても未収入金債務者に経済的利益を供与したことにはならない旨主張するので、未収入金がもともと架空のものであるか否かにつき検討する。

(一) 事実の認定

当事者間に争いのない事実、弁論の全趣旨と以下の各項の括弧内に記載の各証拠によると、次の事実を認めることができる。

(1) 原告会社は、土地開発、建売、土地売買等を業とする会社である。

(2) 昭和四七年四月から昭和四八年八月までの間に、別表乙4記載のとおり、京都市伏見区の土地三〇筆を田中甚三郎ほか一四名から、約六、〇〇〇坪を、金四億三、五〇三万六、〇〇〇円(平均して坪七万二、二八九円)で、同市山科区の土地六筆を昭和三九年二月から昭和四二年六月までの間に、現在、単価が不明であるが、これらをそれぞれ買い受けた(甲一~一五、原告会社前代表者富田保治本人第一一回口頭弁論実施分一~四丁)。

(3) 右伏見区の土地の買収計画は、当初一万五、〇〇〇坪の一団の土地を買収し宅地造成する計画であったが、これが不可能になり、いわゆる虫食い状態となった(原告会社前代表者富田保治本人第一一回口頭弁論実施分一~四丁)。

(4) そこで、原告会社は、山科区の土地六筆については昭和四九年一月二二日に原告富田謙三ほか一名に、伏見区の土地三〇筆については昭和四九年八月から昭和五〇年七月までの間に、別表乙2の1~3記載のとおり、八回にわたり、同族会社である原告会社の役員、使用人、代表者の親族である原告富田保治ほか二二名に譲渡した。この伏見区の土地三〇筆の売買代金は当初の契約書上では、同別表乙3の「冨士興業が当初申告した譲渡価額」欄記載のとおり、合計五億一、八〇〇万円(坪約八万五、〇〇〇円)とされていた(甲二〇ないし二九、原告会社前代表者富田保治本人第一一回口頭弁論実施分五丁)。

(5) 昭和五一年二月から九月頃にかけて、被告中京税務署長の担当国税調査官富永泰成らは、税務調査として、何度も、原告会社に対し、原告会社から原告ら(前示譲受人)に対する譲渡価額が低額であることを指摘し、伏見区の土地三〇筆については時価を坪一三万円とするなどして、その差額を低額譲渡による贈与として修正申告をするように強くしょうようしたが、原告会社はなかなかこれに応じなかったので、更正処分を準備していた(証人富永泰成第一三回口頭弁論実施分二~四丁、八~一〇丁、原告会社前代表者富田保治本人第一一回口頭弁論実施分一〇丁)。

なお、被告中京税務署長は、右本件土地について、原告会社が各買主らに低額譲渡した時点での時価を算定するため、同被告が収集した売買事例を同被告の上級官庁である大阪国税局法人税課及び資産税課に送付し、そこで全国的な傾向、地域的な動向を十分検討したうえ、右伏見区の土地三〇筆については坪約一三万円、山科区の土地六筆については同約二〇万円の時価を算出したうえこれに基づいて、修正申告のしょうようをしたものである(証人富永泰成第一三回口頭弁論実施分六~八丁)。

(6) 同年一二月一六日、原告会社の野村顧問税理士が、第一回修正申告書を持参したが、それでは土地の売買代金を坪一〇万五、〇〇〇円として、土地売却未収入金の増加を利益積立準備金として計上したものであった(乙A二二-3、4頁、乙A二六-3、4頁)。

これに対し、被告中京税務署長側は、当初の指導のとおり、坪一三万円で修正申告するように再度しょうようした(証人富永泰成第一三回口頭弁論実施分一一丁)。そこで、右野村税理士は、昭和五二年七月一日に坪一二万円として、未収入金の増加を右同様に利益準備金として計上した第二回修正申告をした(乙A二〇-4、6、7頁、乙A二四-6、7頁、証人富永泰成前掲実施分一一~一四丁)。

(7) このような修正申告を受けた被告中京税務署長側は、修正申告をしょうようしている段階である程度未収入金処理を予想していたことでもあり、右二回の修正申告を容認したが、その際、しっかり回収しないと貸付金に認定されるので、本勘定に受け入れて早期に回収すべき旨を前示野村税理士に指導した(証人富永泰成前掲実施分一三~一六丁)。

また、原告会社顧問税理士である田中保次ら三名は、第一回修正申告をするにあたって、原告会社に対して、未収入金とするならば、買主である原告らに意思表示をして了承を得ておかなければならない、むしろ、更正処分を受けて争うという正攻法でいくように指導していたが、原告会社前代表者富田保治はこれを押し切って、前示修正申告に及んだものである(証人田中保次第一〇回口頭弁論実施分九、一二、一三丁)。

(8) 昭和五二年四月二五日以降、原告会社は右(7)の税務署の指導を受けて、昭和五一年二月期及び昭和五三年二月期以降の決算事業年度の確定した各決算貸借対照表に、資産として未収入金を計上している(乙A一八-5頁、乙A一九-5、13頁、乙一四-5、28頁、乙A一五-5、13、26頁、乙A一六-5、12、25頁、乙A一七-5、13頁)。

(9) 昭和五二年四月二二日及び昭和五三年四月二五日開催の定期株主総会議事録には、未収入金について、了承を得た、その際、議長は質問に答えて、これは「税務当局の指導により不本意ながら止むを得ず計上したものであり当社と買主との間には何ら新たに発生した債権債務ではありません」と説明した旨の記載がある(甲三三、三四)。

(10) 昭和五六年、五七年、五八年の各二月期の各確定決算において従前から繰り越してきた前示未収入金をそれぞれ雑損失として損金に計上したうえ、確定申告をした(争いがない)。

(11) 昭和五八年一一月二八日、原告会社は、右未収入金の金額について「請求書」と題する文書を買主である原告らに発送し、同月三〇日から、一二月七日までの間に、これに対して、買主らが、原告会社あてに時効援用書と記載した「回答書」を交付している(甲五四、乙A一-35、36頁など)。

(12) 昭和五九年三月三一日、原告会社は前示(6)の未収入金を回収不能として、雑損失に処理する旨の決算を行い、その旨の申告をした。これに対して、被告中京税務署長は、この損金処理を否認したうえ、富田保治、富田謙三、金丸喜久子に対する役員賞与にあたるし、垣田正一、山本精三、富田保一郎、富田智子、富田博子の五名に対する使用人給与(賞与)となり、その余の原告らの分は寄付金にあたるとして、別表乙A1の1~3、A3、B1~3、C1、2、D1~4、E1~4、F1~3、H1~9のとおりの経緯で本件更正処分等をし、審査があった(争いがない)。

(13) 原告会社の株主の状況、その親族関係、その余の原告らの地位は別表乙1記載のとおりである(争いがない)。

(二) 未収入金債権の存否の検討

(1) 前示(一)認定の各事実とその経緯、弁論の全趣旨を考え併せると、原告会社は買収した本件土地を売却する必要に迫られ、伏見区の土地三〇筆、山科区の土地六筆を、公社等の買収を予想し、これを各別に原告会社代表者の親族等の株主、使用人、その他の親族などである原告らに譲渡し、租税特別措置法三三条の四〔収用交換等の場合の譲渡所得等の特別控除〕一項の三、〇〇〇万円控除の規定を利用するため、原告会社の役員、親族、使用人などの縁故者を動員して、土地の譲渡益を一人当たり三、〇〇〇万円に収まるように各人に低額で譲渡したものと推認できる。

(2) 原告は、低額でなく時価譲渡であった旨をるる述べるが、次のとおりいずれもその理由がない。

イ 前認定(一)(6)のとおり自ら低額譲渡であったことを認めて、差額代金分を未収入金債権とする修正申告をし、その旨を同(一)(8)(9)のとおり決算貸借対照表に計上して、ともあれ株主総会の承認を得ており、同(一)(9)の説明文の記載は同(一)掲記の各証拠、弁論の全趣旨に照らし遽かに信用できないから、後示のとおり、これが架空のものであることを示すに足る特段の事情が認められない以上、右売買を低額譲渡であったと認めるのが相当である。

ロ また、原告会社は、売却土地の買取価額を示し、各物件ごとに右買取価額と譲渡価額を対比してそれに差額があるから低額譲渡でない旨主張するが、寄付金に当たるか否かは、昭和四九年八月以降の本件譲渡時の適正価額と現実の本件譲渡価額との差額を問題とすべきものであり、原告の買取価額のいかんは、右低額譲渡の成否には直接関係がないものである。

ハ さらに、原告会社は、右対比を土地の買取価額のみで行っているが、直接原価を構成する買取に当たっての支払手数料、間接経費である買取のための借入金に対する売却に至るまでの借入金利息及び買収から売却に至る間の一般管理費が原価へ配分されていないのであって、この土地買取価額のみとの比較では、低額譲渡でないことを裏付けるものとはいえない。なお、弁論の全趣旨によれば、その買取価額は別表乙2のとおりであり、原告会社の主張には誤りが存在する。

(3)イ 前認定(一)の各事実とその経緯、とくに、(一)(5)ないし(10)の事実、弁論の全趣旨に照らすと、原告会社は、二回にわたる修正申告と、その後の貸借対照表に未収入金債権として計上したこと、その頃、原告会社の株主総会で右未収入金債権を計上した決算が承認されていること、その後、本件の雑損失処理をした後に、原告会社が未収入金債権の請求をし、これに対して買主である原告らは、仮定的である旨を付記してはいるが時効を援用していることなどに照らすと、原告会社は買主との間で当初の土地売買代金を修正申告のとおり増額し、これをもって当初からの売買代金とする旨の合意が成立したものと認めるのが相当である。

即ち、申告納税制度とその下における税法上の信義則に照らし、納税者が申告した申告内容の事実は、納税者が錯誤など故意過失なく申告を誤った場合であるなどの特段の事情がない限り、申告者とその通謀者、共謀者などとの関係においては、申告した事実が存在するものと推認するのが相当であり、その推認を破るには、納税者などが右特段の事情の存在を合理的な疑いのない程度の高度の蓋然性をもって、立証する必要があると考える。

ロ そして、原告らは、この点につき、被告中京税務署長の調査職員などが架空の未収入金債権として処理し、その後雑損失処理をすればよいと勧めたと主張するけれども、そもそも、このような処理を許せば、税務署は結局税金は当初の修正申告で納税を受けても、損金処理でその分だけ課税できないことになり損益が相殺され、実質的に公平な課税を確保できなくなるのであって、このような税務指導が適法になされたものとは考えられないうえ、この事実が認められないことは、前示証人富永、証人田中の証言(証人富永泰成第一三回口頭弁論実施分一五丁、第一四回口頭弁論実施分一五~一七丁、証人田中保次前掲一三、一六、一七丁)、弁論の全趣旨に照らし明らかであって、これに反し、原告の右主張に副う原告会社前代表者亡富田保治本人尋問の結果の一部は、前示のとおり、証人富永、同田中の各証言、弁論の全趣旨に照らし遽かに信用できず、他にこれを認めるに足る的確な証拠がない。

なお、弁論の全趣旨によれば、被告中京税務署長が、原告の本件未収入金債権が長期間回収されていないのに、実質的に貸金と認定してその利息金相当分に対する課税を行っていないこと、原告会社の未収入金処理を買主である原告らに対する反面調査によりその真偽を確認しないまま容認した点は、いささか厳正さに欠けるところもあり、これが本件紛争の一因となっているといえるけれども、だからといって、これをもって、原告ら主張のように未収入金債権が架空のものであることを推認するに足るものということはできない。

ハ また、原告会社前代表者富田保治が、将来回収しないときは税法上の問題になることが分かっていながらも、もともと未収入金に計上した売買代金の増加分を譲受人から受け取るつもりはなく、いずれ将来には未収入金の損失処理を企図していたとしても、原告会社と譲受人の間に前記売買代金額の増額の合意が成立したものとする推認の妨げとなるものではない。

ニ 原告会社は、同会社が被告中京税務署長に対して、右のような申告したからといっても、売買契約における代金の合意は当事者間の合意により定まるものであって、原告会社が中京税務署長に対し、代金額を増額した旨の申告をしたからといって、当然に代金額が変更されるわけはないとも主張する。

しかしながら、本件土地の買主である原告らは前認定(一)(13)のとおり、原告会社前代表者富田保治と親族関係ないし会社の役員、使用人であり、そのうち姉の孫にあたる者も近親者、使用人らとの共同買受人であること、同(一)(9)(11)の各事実、弁論の全趣旨に照らし、未収入金として当初の売買代金を増額して処理することを知って、これに協力したもので、原告会社との間でこの修正申告につき、通謀があったものと推認することができ、前記のとおり、譲渡価額の変更の合意があったものと認定できるのであって、原告らの右主張は採用できない。

(4) したがって、原告会社と買主である原告らとの間には、前示未収入金相当の債権が存在していたものと認定でき、これが架空のものであって、もともと存在しない旨の原告らの主張は採用できない。

(三) 未収入金の損失処理の当否

(1) 原告らは原告会社の未収入金債権がもともと架空であって、回収不能である旨主張するが、これが架空のものではなく、前示のとおり、その債権が存在するものと認定できるから、原告の右主張はその前提において理由がなく、採用できない。

(2) 原告会社は、未収入金債権を本件雑損失処理をした旨の確定申告書に添付されている決算報告書に付属した雑益、雑損失等の内訳書の取引の内容欄に、昭和五六、五七年各二月期の土地売却未収入金貸倒金回収不能債権放棄と記載し、昭和五八年二月期分は土地売却未収入金貸倒金回収不能との文言を記載している(乙A一三-5頁、乙A一四-8頁、乙A一五-7頁)。

(3) 原告会社は、未収入金債権が回収不能である旨主張するが、原告会社が債権回収の努力をしても、債務者の支払い不能等により回収ができなくなった等の具体的事実につき、何らの主張も立証もしないし、本件全証拠によってもこれを認めるに足らない。

(4) そして、原告会社が未収入金債権の貸倒金回収不能、債権放棄として雑損失に計上した場合に、これが回収不能などの事実が認められないときは、これをもって債権の放棄とみることができ、税法上、寄付金の支出かその他の利益処分にあたるというべきである。したがって、右回収不能による損失処理は、買主である原告らにとって、前示第二の四1(一)、(二)(1)ないし(3)、3において被告らが主張するとおり買主である原告らに対する寄付金、役員賞与、使用人給与(賞与)にあたるというべきである。

(5) 原告らは前示予備的反論として、原告らが原告会社から本件土地を買い受けた時点である昭和四九年ないし昭和五〇年から数えて、その低額譲渡による経済的利益の租税債権などは、右回収不能処理時点では、会計法三〇条、国税通則法七〇条に照らし既に消滅している旨主張するが、本件更正処分等は原告会社の回収不能時点における課税処分であるから、主張自体失当である。

(6) したがって、原告会社の本件未収入金債権の回収不能による雑損失処理を否認し、これを原告らに対する寄付金、役員賞与、使用人給与(賞与)としてなした被告らの本件更正処分等は適法であって、これに違法な点はない。

二 低額譲渡事件(A、G事件)の検討

1 低額譲渡事件の成否について

(一) 事実の認定

(1) 昭和五六年七月二八日、原告会社は、森南町の土地の一部五〇一平方メートルを、譲渡価額三、四八〇万七、〇〇〇円(一平方メートル当たり六万八、二四九円)で原告富田保一郎及び同富田順子に売り渡し、その余の残地部分二五〇平方メートルを譲渡価額一、七四〇万三、〇〇〇円(一平方メートル当たり六万九、六一二円)で原告富田宏子(以下、右原告らを「原告三名」という。)に譲渡した(乙A三〇、三一)。

(2) 昭和五六年九月一〇日、原告三名は山本重太郎との間で、森南町の土地を多近田町の土地とほぼ同面積を等価で交換した(甲三八、乙A二)。

(3) 昭和五七年一月一一日、原告三名は多近田町の土地をとくに造成等を行わないで交換時の現況のまま京都市土地開発公社に代金一億二、四二六万九、一二〇円で売り渡した(争いがない)。

(4) 昭和五七年四月二八日、原告会社は被告中京税務署長に提出した昭和五七年二月期に係る確定申告書添付の土地の売上高等の内訳書に、森南町の土地を昭和五六年七月に富田保一郎、富田順子及び富田宏子の三名に五、二二一万円で売却した旨を記載している(乙A一四、7頁)。

(5) 原告富田宏子は、原処分庁からの不動産の買い受けについてのお尋ねの文書に対する回答文書中で、種類欄に宅地、取得先は原告会社、買入れ年月日は昭和五六年七月二八日、譲渡価額は一、七四〇万三、〇〇〇円であると記載して回答している(乙A三二)。

(二) 森南町の土地の買主の認定

前認定の各事実、とくに、前示(一)(1)(4)(5)の事実、弁論の趣旨に照らすと、森南町の土地の原告会社からの買受人は、前示(一)(1)のとおり、原告三名であると認められる。これに対し、原告らは、不動産売買契約書(甲三六、三七)を提出し、その記載のとおり、原告会社からの買主が原告富田保一郎、原告富田順子であって、同年八月二〇日、同人らから原告富田宏子が転売を受けたものである旨を主張している。

しかし、他方、原告会社が被告中京税務署長の調査担当者薄井に提示した売買契約書には(乙A三〇、三一、証人薄井、弁論の全趣旨)、前認定(一)(1)のとおり原告会社から原告三名に譲渡された旨の記載があるし、前認定(一)(4)(5)のとおり原告会社、原告富田宏子において、その旨を記載した書面を税務署に提出していること、弁論の全趣旨を考え併せると、前認定のとおり、森南町の土地の原告会社からの買主は原告三名であると認められ、前掲甲第三六号証、甲第三七号証の記載は遽かに措信し難く、他に右認定を動かすに足る証拠がない。

2 低額か否かの検討

(一) 法人税法三七条六項は、法人が資産の譲渡をした場合において、その譲渡の時における価額が時価に比して低いときは、当該対価の額と当該時価との差額のうち実質的に贈与したと認められる金額は、寄付金に含まれるとしているのであって、ここでいうその譲渡の時における価額即ち時価とは、客観的な市場価額を指す。

原告会社及び原告三名は、被告が森南町の土地の時価として主張する一平方メートル当たり一〇万八、八〇〇円が高額に過ぎ、原告会社と原告三名の売買は低額譲渡にあたらないとるる主張する。

しかし、次の(1)ないし(4)の事実、弁論の全趣旨に照らすと、本件森南町の土地の右売買当時の客観的な市場価格は、低額譲渡事件で裁決により認定された一平方メートル当たり八万五、〇〇〇円を下ることはなく、被告主張の一平方メートル当たり一〇万八、八〇〇円であると認められる。

(1) 被告中京税務署長が依頼して不動産鑑定士の鑑定では、近傍類地の取引事例を基に正常価格を一平方メートル当たり一〇万八、八〇〇円であるとしている(乙A二)。

(2) 多近田町の土地の前示1(2)の交換の時点における時価は一平方メートル当たり一一万九、一一〇円であると評価できる(乙A二)。

(3) 昭和五七年一月一一日、土地開発公社が、原告三名から本件多近田町の土地を一平方メートル当たり一三万六、二六〇円で買収した(争いがない)。

そして、これを基礎として昭和五六年九月一〇日当時の価格を価格指数により次のとおり時点修正をして計算してみると、一平方メートル当たり一三万二、六五九円となり、右(2)の評価がとくに高きに過ぎるものとはいえない。

(計算式)

価格指数

昭和五六年九月当時の指数 四六七九

昭和五七年三月当時の指数 四八七〇

昭和五七年一月一一日の価格指数

(4870-4679)×4か月/6か月+4679=4806

昭和五六年九月一〇日の価額

136,260×4679/4806=132,659円

(二) これに対して、原告会社らは、昭和五六年当時の森南町の土地の時価が前認定の売価である一平方メートル当たり約六万八、〇〇〇円ないし六万九、〇〇〇円であると主張し、また、前示(一)(3)の公社の売買価額は特殊例外的な価額であると主張して、不動産鑑定書(甲四〇ないし四三)を提出し、これには昭和五六年当時の時価は、一平方メートル当たり六万四、六七〇円(甲四〇)、七万円(甲四一)であるとか、昭和六〇年当時は、七万八、五九三円(甲四二)、八万六、〇〇〇円(甲四三)であるという記載があるが、これらはいずれも私的鑑定であるうえ、その算定の基礎となった田等の取引事例は森南町の土地とかなり離れた土地であったり(宇治市や山科区)、面積の小さいものや(甲四一)、古い昭和五四年当時の取引であり(甲四一)、有効宅地化率に基づき二九・七二パーセントの土地の時価を零円とする等の点に疑問があるものであって、前認定(1)ないし(3)の事実、弁論の全趣旨に照らし採用できないし、また、公社の売買価額が特殊例外的なものであることを認めるに足る的確な証拠がない。

第五結論

一 以上のとおり、被告ら主張の未収入金の雑損失処理の否認、低額譲渡による寄付金、役員賞与、使用人給与、一時所得及び交換による分離短期譲渡所得の認定は相当であり、これを前提とした被告ら主張の別表乙4ないし15の課税の根拠及び計算が正当であることは、計数上明らかであって、原告らもその余の処分の適法性やその計算過程の正当性を争っていない。

二 したがって、被告らの本件更正処分等は適法であって、これに原告ら主張のような違法がないことが明らかであるから、原告らの本訴請求のうち、原告会社の前示再更正処分前の更正処分の取消しを求める部分の訴えを不適法として却下し、その余の請求をいずれも失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政訴訟法七条、民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉川義春 裁判官 菅英昇 裁判官 堀内照美)

第一物件目録

ア 京都市伏見区小栗栖北後藤町二八番

田 三四三m2

イ 同町三四番

田 八三三m2

ウ 同町三七番

田 一、二二三m2

以上

第二物件目録

エ 京都市伏見区小栗栖北後藤町一番

田 三四四m2

オ 同町二番

田 七二〇m2

カ 同町五番

田 四四二m2

キ 同町六番

田 三五〇m2

以上

第三物件目録

ク 京都市伏見区小栗栖北後藤町一六番

田 四四二m2

ケ 同町一七番

田 八二六m2

コ 同町四四番

田 六九七m2

サ 同町四七番

田 二七四m2

シ 同町四九番

田 六四四m2

以上

第四物件目録

ス 京都市伏見区小栗栖北後藤町三番

田 五八八m2

セ 同町四番

田 七六三m2

以上

第五物件目録

ソ 京都市伏見区小栗栖北後藤町一八番

田 五一五m2

タ 同町一九番

田 一、四二八m2

以上

第六物件目録

チ 京都市伏見区小栗栖北後藤町八番

田 五三八m2

ツ 同町三三番の一

田 六九〇m2

テ 同町四二番

田 一三五m2

ト 同町四三番

田 一、二九二m2

以上

第七物件目録

ナ 京都市山科区西野堰川町五八番の一三

宅地 二五九・六〇m2

ニ 同町六九番の二

宅地 七五・三一m2

ヌ 同町六九番の四

宅地 四・〇二m2

以上

第八物件目録

ネ 京都市山科区西野堰川町四五番の二四

宅地 九八・三九m2

ノ 同町四五番の二五

宅地 五二・一〇m2

ハ 同町六〇番の六

宅地 三九・五〇m2

以上

第九物件目録

ヒ 京都市伏見区小栗栖北後藤町九番

田 九二五m2

フ 同町三七番の二

田 二〇八m2

ヘ 同町四一番

田 三一四m2

ホ 同町五〇番の一

田 四八四m2

以上

第十物件目録

マ 京都市伏見区小栗栖北後藤町一一番

田 六四四m2

ミ 同町一二番

田 一、一〇四m2

ム 同町一二番の一

田 一四八m2

メ 同町一五番

田 一、三一九m2

モ 同町二三番

田 一、三八八m2

ヤ 同町三九番

田 二三八m2

以上

別表甲1

土地買収一覧表

〈省略〉

別表乙1

身分関係一覧表

〈省略〉

別表乙2の1

富士興業関連事件一覧表

〈省略〉

別表乙2の2

〈省略〉

別表乙2の3

〈省略〉

別表乙3

富士興業(株)の土地売上及び売買一覧表

〈省略〉

別表乙4(法人税・昭和五六年二月期)

〈省略〉

別表乙5(昭和五六年二月期の寄付金の損金不算入額の計算)

〈省略〉

別表乙6(源泉所得税・昭和五六年二月分)

〈省略〉

別表乙7(法人税・昭和五七年二月期)

〈省略〉

別表乙8(昭和五七年二月期の寄付金の損金不算入額の計算)

〈省略〉

別表乙9(源泉所得税・昭和五七年二月分)

〈省略〉

別表乙10(法人税・昭和五八年二月期)

〈省略〉

別表乙11(昭和五八年二月期の寄付金の損金不算入額の計算)

〈省略〉

別表乙12(源泉所得税・昭和五八年二月分)

〈省略〉

別表乙13 未収入金の雑損失処理の内訳及びその発生の経緯

〈省略〉

別表乙14 四九年売買の原告らの課税の内訳

〈省略〉

別表乙15 五六年度売買の原告らの課税の内訳

〈省略〉

別表乙A1の1

法人税の課税の経緯

〈省略〉

別表乙A1の2

法人税の課税の経緯

〈省略〉

別表乙A1の3

法人税の課税の経緯

〈省略〉

別表乙A2

寄付金の損金不算入額の計算

〈省略〉

別表乙A3

源泉所得税の課税の経緯

昭和56年2月分

〈省略〉

昭和57年2月分

〈省略〉

昭和58年2月分

〈省略〉

別表乙B1

金丸太一郎の昭和56年分課税の経過及びその内容

〈省略〉

別表乙B2

辻村祐子(旧姓金丸)の昭和56年分課税の経過及びその内容

〈省略〉

別表乙B3

金丸康治の昭和56年分課税の経過及びその内容

〈省略〉

別表乙C1

藤井敏夫の昭和56年分課税の経過及びその内容

〈省略〉

別表乙C2

赤畠美智子の昭和56年分課税の経過及びその内容

〈省略〉

別表乙D1

富田保治の昭和57年分課税の経過及びその内容

〈省略〉

別表乙D2

富田ヨシの昭和57年分課税の経過及びその内容

〈省略〉

別表乙D3

富田保治の昭和58年分課税の経過及びその内容

〈省略〉

別表乙D4

富田ヨシの昭和58年分課税の経過及びその内容

〈省略〉

別表乙E1

富田謙三の昭和57年分課税の経過及びその内容

〈省略〉

別表乙E2

富田謙三の昭和58年分課税の経過及びその内容

〈省略〉

別表乙E3

富田謙一郎の昭和57年分課税の経過及びその内容

〈省略〉

別表乙E4

富田典子の昭和57年分課税の経過及びその内容

〈省略〉

別表乙E5

富田哲史の昭和57年分課税の経過及びその内容

〈省略〉

別表乙F1

富田征義の昭和57年分課税の経過及びその内容

〈省略〉

別表乙F2

富田征義の昭和58年分課税の経過及びその内容

〈省略〉

別表乙F3

富田美保の昭和57年分課税の経過及びその内容

〈省略〉

別表乙G1

富田保一郎の昭和56年分課税の経過及びその内容

〈省略〉

別表乙G2

富田順子の昭和56年分課税の経過及びその内容

〈省略〉

別表乙G3

富田宏子の昭和56年分課税の経過及びその内容

〈省略〉

別表乙G4

富田保一郎の昭和56年分の譲渡所得金額の計算

〈省略〉

別表乙G5

富田順子の昭和56年分の譲渡所得金額の計算

〈省略〉

別表乙G6

富田宏子の昭和56年分の譲渡所得金額の計算

〈省略〉

別表乙H1

富田順一の昭和57年分課税の経過及びその内容

〈省略〉

別表乙H2

富田宏子の昭和57年分課税の経過及びその内容

〈省略〉

別表乙H3

富田保一郎の昭和57年分課税の経過及びその内容

〈省略〉

別表乙H4

富田順子の昭和57年分課税の経過及びその内容

〈省略〉

別表乙H5

富田千晴の昭和57年分課税の経過及びその内容

〈省略〉

別表乙H6

富田順一の昭和58年分課税の経過及びその内容

〈省略〉

別表乙H7

富田宏子の昭和58年分課税の経過及びその内容

〈省略〉

別表乙H8

富田保一郎の昭和58年分課税の経過及びその内容

〈省略〉

別表乙H9

富田順子の昭和58年分課税の経過及びその内容

〈省略〉

別表乙H10

富田千晴の昭和58年分課税の経過及びその内容

〈省略〉

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